PROJECT STORY

地権者の負担を取り除くとともに行政を支援。
業務代行方式により、初めての事業主へ。

  • Project
    松本市惣社土地区画整理事業
  • Project Member
    営業本部/まちづくり本部/法人パートナー支店

projectstory_b_2.jpg

リスクを負い、業務代行者となる決断

長野県松本市では、市街化区域内の区画整理事業を希望する地区に対し、約30%の助成金を拠出してきた。この制度の廃止に伴い、各地権者組織の中から立候補したのが7地区。そのうち2地区の区画整理が検討され、TOLEXを含む複数のコンサル会社に声がかかった。

農地を宅地にするためには、新たに道路を造る必要がある。地区内の地権者から農地を提供してもらい、道路を通した後、一部の土地を「保留地」として宅地化し販売。この収益を事業予算に充てるのが、一般的な区画整理の手法だ。地権者に返却する残りの土地を「換地」といい、従来のまま農地として活用する、あるいは宅地として運用、販売するケースもある。

「長野支店での営業活動がきっかけとなって、当社に声がかかりました。ところが当社は松本市での実績は皆無。しかも、松本市はこれまで46地区の区画整理事業を手がけてきた、いわば"強者"です。小規模かつ遠方ということで当初は提案するのに躊躇いがありました」

「従来方式の区画整理では、地権者組織を法人化した組合が事業主となり、年度ごとに方針を決めて進めます。土地を売った後でないと事業費用が捻出できないため、組合は金融機関から借入を行う必要があります。一方、今回提案した『業務代行方式』は、事業計画のスタートから土地売買を完了するまでの一連の流れを、民間の『業務代行者』が責任を持って行う手法です。組合は土地を差し出すだけで、借入は不要。そのため地権者の精神的・金銭的負担が大幅に軽減します」

「当社がこれまで携わってきた業務代行方式では、ゼネコンやデベロッパーなど大手企業が業務代行者となり、コンサルタントとして区画整理に必要な測量・計画・設計を担当してきました。つまり、これまでは業務代行者になるという発想がありませんでした。現地で話を聞いた当日、東京へ帰る車の中で、『規模が小さい案件だからこそ、業務代行者になってみよう』というアイデアが浮上。帰社した週末にさっそく社長と相談し、翌週の月曜日に第1回プロジェクト会議を開催しました。そして全社横断の7名のプロジェクトチームが発足。事業スキームやキャッシュフロー、想定されるリスクを細かく検討し、1ヵ月強で社内の投資委員会を通過。初めての試みに対し、驚くほどのスピード感でした」

業務代行者として事業主になるという前代未聞、会社初のプロジェクトが短期間に立ち上がる。チームが受注を目指すのは、松本市で手を挙げた2地区のうちの「惣社」地区の業務代行方式での区画整理事業。地権者は10名で、TOLEXにとっては申し分のない事業規模だった。





projectstory_b_3.jpg

ハンデを乗り越え"起死回生"の勝負手に賭ける

提案に向け、チームの意欲が高まってきた矢先のこと。耳の痛いニュースが飛び込んで来た。惣社地区ではないもう1つの地区が、地元大手企業の提案をのみ、即決で従来方式での事業化が決まったのだ。

「我々のような新参者は、同じ土俵に上がることさえできないのか─。それが最初の感想でした。しかもこのニュースが飛び込んだ翌日には、その大手企業が惣社地区の地権者を対象とした勉強会を開催するといいます。まさに寝耳に水の出来事でした」

「一刻を争うため、当社の社長に最終的な意志を確認。翌日の予定をすべてキャンセルし、松本市へ飛びました。市には『当社が事業主として、地権者に負担が及ばない業務代行方式を提案します。保留地だけでなく、希望なら換地も買います』と表明しました」

通常、業務代行方式では事業費捻出のため、保留地を買う必要がある。ところがTOLEXはプラス1、さらに換地の購入を約束したのだ。

「市の担当者は以前から、業務代行方式に期待していました。市の助成金が打ち切られると、地元発意の面整備の道が閉ざされるのを懸念していたのだと思います。助成金の廃止後は、区画整理を希望される地権者組織が現れた時、市が積極的に関わることができません。業務代行者として民間企業による道を残しておきたかったのだと思います」

正式に立候補することとなったTOLEX。地元大手企業の勉強会の前に、市から地権者組織に対し、TOLEXによる業務代行方式の提案が伝えられた。地権者組織の意向として、正式なプロポーザルまで決断を急がないという結論にいたったという。




projectstory_b_4.jpg

苦心の末、土地売買の合意書を獲得

行政からの応援を肌で感じ、業務代行方式に自信を持ち、ようやく上向きかけたプロジェクト。ところが不動産売買取引の合意書をめぐり、進捗に暗雲が垂れ込める。

「土地の売り先を見つけるため、水面下で地元不動産会社を中心に奔走していました。想定以上にボトルネックとなったのが、土地売買の約束を交わすための合意書です。メンバーの人脈により、どうにか保留地の売り先は確保でき、合意書を交わすことができました。ところが、換地の方は合意書がなかなか交わせない。四苦八苦していた時、手を差し伸べてくれる企業がありました。なんと当社と競合していた地元大手企業だったのです」

「葛藤しましたが、当社も売り先に困っていました。ところが市を介して接触を試みると非常に反応が良い。『TOLEXさんのやり方で結構です。換地すべて買う用意があるし、一部でも構いません。もちろん合意書も交わします』と言われた時は、天にも昇る気持ちでしたね」

合意書がないとプロポーザルに正式に立候補できない。切羽詰まっていたTOLEXを救った競合企業の存在は大きかった




projectstory_b_5.jpg

プロポーザルで特定され、ついに逆転勝利へ

2015年11月、業務代行者選定プロポーザルには、当社を含む4社が指名された。提案書を提出後の2016年1月、プロジェクトメンバーと社長、不動産の販売先となる協力会社を含む、総勢10名でのプレゼンテーションが地元公民館で行われた。翌週の2月初旬、ついにTOLEXが業務代行者として特定されたのだった。

「まさにゾーンに入った、真剣勝負のプレゼンテーションでした(笑)。事業主として包括的にグループをまとめ上げるのは、初めての経験です。造成工事を担う建設会社も、保留地・換地を買う不動産会社も我々が決めました。最終的には造成工事及び土地の取引が完了するのがゴールですが、約束事はすべて終了しているのでひと安心です」

「業務代行グループの一員としての参画実績はあったものの、惣社地区で、初の事業主として業務代行者の実績ができたのは大きな自信につながりました。業務代行方式の先にあるのが、『個人同意施工』。これは工事も土地売買も、地権者から民間企業が一任されて区画整理する手法です。常に新たな手法に挑戦したいですね」

「今回の成功は、1人の社員の人脈によるところが大きかった。そして業務代行方式を熟知する技術者がいたからこそ、決断することができました。それぞれ役目を果たし、全員で勝ち取った事業です。農地では、跡継ぎがいないなどの悩みを持つ地権者が多い。そういう方々の精神的・金銭的負担を取り除きながら、同時に自治体を支援していきたいと思います」

既成概念にとらわれず、時代の潮流を見据えて事業に取り組むTOLEX。これからも区画整理の新たな手法を模索して行く。




projectstory_b_6.jpg