PROJECT STORY

鉄道の高架化により『開かずの踏切』を除去。
線路とホームの真下に駅前広場を確保。

  • Project
    竹ノ塚駅付近連続立体交差事業
  • Project Member
    設計本部 鉄道計画・設計部

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社会的意義のある連続立体交差事業

連続立体交差(以下:連立)事業とは、鉄道を連続的に高架化・地下化することにより、複数の踏切を一挙に除去し、交通安全や渋滞緩和など都市生活の発展に寄与することを目的とした事業のこと。

2005年3月、竹ノ塚駅付近の踏切で死傷者を出すという事故が発生。これを契機として全国的に『開かずの踏切』への対策を求める機運が高まった。

安全への懸念だけでなく、慢性的な交通渋滞に悩まされてきた竹ノ塚駅周辺の住民が安心して生活できる環境を整備するため、鉄道計画・設計部のメンバーが立ち上がった。

「通常は都道府県や政令指定都市が事業主ですが、本件は足立区が事業主。足立区が東武鉄道に委託し、設計や施工など立体化を進めます。当社が東武鉄道から委託されたのは、『線形計画』と『構造物の設計』の大きく2つです。平面や高低差を含め、列車をどう走らせるかを決めるのが線形計画。さらに、列車が走る高架化した構造物の詳細設計を行います。この図面を基に東武鉄道が建設会社に施工を発注し、立体化が完了します」

「担当者は線形計画で5名、構造物の設計に5名。さらに当社の建築チームが、デザインや景観を含む駅舎の計画・設計を実施。旅客誘導といって利用者数や動線などを検討します。連立事業の目的の1つに、線路で分断された両側の地域間交流があります。線路をまたいで小学校の校区があるため、歩道橋を利用するなど通学にも不便でした。立体化が完了すれば、自由に行き来できるようになります」

これまで長きにわたり鉄道事業を支援してきたTOLEX。ところが、このプロジェクトには数々の困難が待ち受けていた。



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緩行線・急行線、車庫に向かう線の5線を高架化

鉄道の高架化では上りと下りの勾配が定められている。竹ノ塚駅の近くには東京メトロの車庫(車両基地)があるため、地平と高架した線路の高低差がネックとなり、これまで事業化に難色が示されてきた。

「車両基地は高架化できません。そのため事業化が困難とされてきたのですが、採択要綱の改訂のほか、『空頭』と呼ばれる地平から高架構造物までの高さを、通常の4.7mから4.0mに減らすことで事業化にこぎつけました。総延長は1.7km。大規模な事業となったのは、上下の緩行線・急行線の複々線であること。そして車庫に向かう線の合計5線が必要です。また、竹ノ塚は都心からの列車が折り返す駅のため、工事中に何本の折り返し線を確保するかというのも課題でした」

「立体化の話が持ち上がり、国の着工準備採択を経て、その後に事業主となる自治体が検討を重ねます。そしていよいよ事業認可となり、連立事業の完成は10年後が目安。非常に長期間の事業となります。用地が狭い場合は線路の真上に高架化する『直上方式』を採用するケースが多い。竹ノ塚の場合は隣接する場所に仮線を作って列車を運行させながら、現在の線を高架化する『仮線方式』を採用しました」

「合計5線ある上、本線から仮線への何十回もの線路の切り替えが大変でした。これまでの折り返し線は3線あったのですが、高架化の後は2線になります。工事期間を短縮させるため、仮線での運行中は折り返し線を1線にするという鉄道事業者からの要請を受け、対応に追われました」

大規模かつ難易度の高い連立事業。チーム全員が一丸となり、これまで培ってきた技術力で柔軟に対応した。



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建築チームと連携し、技術で要望に応える

この事業で特徴的だったのは、駅前広場を高架下に設置したことだ。この難題を実現するため、TOLEXの建築チーム、鉄道事業者との連携が必要となる。

「用地買収には時間がかかることもあり、西口の駅前広場の一部、ロータリーを駅のホーム下に設置。この構造は、非常に稀なケースでした。8両の列車が止まるホームは全長約170m。ホーム部分のほぼ半分が駅前広場となるため、限られたエリアに階段やエレベーターなどの昇降設備を納めなければなりません。バリアフリーの観点からも、通路や階段の幅などを考慮する必要があります。すると、それらの配置が構造計画に影響します。通常なら12mおきで同一の径間を、部分的に12.5m、11m、13mにするなど割り付けに苦労しました」

「鉄道は安全を支える意味でも、建築よりも土木の計画・設計が先。ところが今回は土木と建築が連携しながら構造を決めていくという、非常に珍しいケースでした。駅前広場の上には、ホーム下に25mの桁をかける必要があるのですが、通常の構造とは大きく異なるため、工夫が必要でした」

詳細設計の工期は決まっており、膨大な作業量に圧倒されたという。その甲斐あって2017年3月、ようやく設計を終えたのだった。



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利用者の安全・快適を支援する責任と誇り

鉄道は立体化工事中、1日たりとも運行を止めることはない。夜中の4時間弱で線路を切り替えるなど、始発列車の時間をずらすことなく利用者の活動を確保している。

「現在、下り急行線の高架化が完了し、すでに列車が運行しています。この始発列車に乗車したのですが、自分が設計した図面が実際の形に現れるのを見て感無量でした。20数年前に入社した頃に名簿を作った際に目標を問われ、そこに書いた言葉は『地図に載る仕事をする』。この気持ちは今でも変わりません。鉄道利用者や地域の方々の暮らしの向上のため、今後も技術を磨いていきたいと思います」

鉄道は人の生活に欠かせない重要なインフラだ。これからも責任と誇りを胸に、TOLEXは安全・安心の鉄道運行を支援し続ける。



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